鈴木奈緒さんの作品(3) [写真論]
さて、鈴木奈緒さんの写真作品に関連して、
〈ガーリーフォト〉と呼ばれた若い女性の写真史を
白濱雅也さんのレクチャーで、勉強してみる。
ガーリーフォトというのは、
1990年代後半に流行した写真の一傾向。
鈴木奈緒さんも1998年に最初の発表をしているので、
ガーリーフォト・アーティストとくくることができる。
写ルンです、プリクラ、携帯カメラ、チェキ(インススタント
写真)、デジカメなど
カメラが日常的で簡単になって敷居が低くなった事がこうした
傾向の条件整備になった。
ちゃんとした技術を持たなくてもそれなりに写真が撮れるようになり、
女子高生などの間で写真を撮ることが一般的になったことから生まれた。
またこれらのカメラは日常的に持つことが出来たので、
身近なものを被写体にすることが多くなって等身大アートが隆盛する。
松居みどりさんの言う《マイクロ・ポップ》というのも、
こういう傾向と言える。
つまり写真だけではなくて、表現全般に、
専門的な技術や修練を経なくても成立出来る様になったと考えられる。
日記/自伝的、等身大的、感覚的、スナップ、カラーというよ
うな傾向がありり、。感覚的な表現に写真のスピードと簡便さ
が合致した。
1995年、当時19歳であったHIROMIXがキヤノン主催の写真新世紀でグランプリを取ったことから、
一般的に認知されるようになった。
この写真新世紀を始め、
ガーディアン・ガーデン主催のひとつぼ展などがこの時期のガーリーフォトの写真家の登竜門となった。
ASADAこと朝田公子も、
1994年. 第23回 グラフィックアート「ひとつぼ展」 グランプリになって、登場しているので、
このガーリーフォト世代として位置づけられる。
写真新世紀と、ひとつぼ展のコンテストに関わった写真評論家 飯沢耕太郎の影響が大きい。
また、これらの傾向はプリント倶楽部などプリント印刷機の発展にもつながった。
2000年代になり、ガーリーフォトという言葉は死語になり、
ブームは終息した感あり。いまはプロヴォーク系へ古典帰りと
コンセプト系アート寄りに分化しているらしい。
○hiromix
火付け役 とにかく写真を撮りまくっていた女の子。
ひりひりとするスピード感みたいなのが魅力か。
HIROMIX(ヒロミックス、本名:利川裕美 1976年〜 )
鈴木奈緒さんも1976年生まれだから、
HIROMIXと同じ世代!
東京都立鷺宮高等学校在学中に女子高校生写真家として注目され、
蜷川実花とともに、1990年代の女の子写真(ガーリーフォト)ブームの火付け役となった。
スナップ写真や、セルフポートレートを多数撮影した。
1995年に写真新世紀グランプリ受賞。
2001年に長島有里枝、蜷川実花らとともに、第26回木村伊兵衛写真賞受賞。
1990年代の女の子写真(ガーリーフォト)ブームというのは、
考えてみれば1980年代には工作少女ブームがあったのである。
2000年代になると、2001年には17歳で綿矢りさが「インストール」で第38回文藝賞受賞。
さらに2004年、蹴りたい背中」で、金原ひとみとともに第130回芥川龍之介賞受賞で、
話題になります。
こうした少女アートのブームの波があると考えられます
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さて、彦坂尚嘉の視点でhiromixを見ると、
《6流》で《想像界》の写真です。
《6流》というのは自然領域ですが、
野蛮ということです。
文明の中の野蛮です。
《6流》がインパクトがあって、受けるのはわかりますが、
hiromixとの比較の中で見ると、鈴木奈緒さんの写真の意味が分かります。
つまり、同じ様なガーリーフォトと言っていいとは思いますが、
最大の差異は、《6流》《想像界》と《超1流》《3界同時表示》の差なのです。
つまりガーリーフォト・ブームの中の、
芸術領域の作家が、鈴木奈緒と言えるのです。
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○蜷川実花
http://ninamika.com/ja/index.asp
最近はイラスト的写真のような。鮮やかな色彩が個性か?
蜷川 実花(にながわ みか、1972年〜 )
蜷川は、年齢的にはヒロミックスよりも半世代前の人。
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蜷川実花の写真も、典型的な《6流》《想像界》の写真で、
すごい数の写真集が出ているが、
私の評価は、まったく低い。
実体的、合法的ですから、
デザイン的エンターテイメント写真です。
そういう意味では、今日のシュミラクルな偽芸術のスタイルです。
私の芸術観的には面白くない。
実は彼女の映画『さくらん』も、
ビデオで半分見たが、想像界の眼で作られた凡作で、
話にならず、途中で止めた。
退屈のひとこと。
○長島有里枝
アーバナート大賞での家族セルフヌードが衝撃でした。
一応家族路線で一貫はしています。
http://www.switch-pub.co.jp/library/photo/026/index.html
長島有里枝(ながしま ゆりえ、1973年 〜 )は日本の写真家。
いわゆる「ガーリーフォト」の代表作家の一人。
1993年 urbanart#2展パルコ賞受賞
2000年 第26回木村伊兵衛写真賞
本人や家族のセルフヌード作品で衝撃的なデビューを果たし、
家族など身近な風景をクールに切り取る作風が、
1990年代の写真界に大きな影響を与えた。
夫はアクション俳優の南辻史人。
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この長島有里枝の写真は、すごい!
《超1流》
《1流》
《2流》
《3流》
《5流》
《6流》
《 11流》
《 21流》
《 31流》
《 41流》
すべてある。
3界、3様態あって、
非合法、非実体で、完全に芸術写真である。
これはすごい!
学歴を見ると、
1995年 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業
1999年 California Institute of the Artsファインアート科写真専攻修士課程修了
きちんと写真の勉強をしていて、
純粋に写真芸術のアーティストと言える。
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こう見てくると、長島有里枝こそが、
ガーリーフォト時代の、最大の芸術家ですね。
写真集を買います。
さて、その中で、我らが鈴木奈緒さんは、
どう位置づけられるのか?
長島有里枝が写真芸術家であるのに対して、
鈴木奈緒は、美術系写真アーティストと言えます。
そういう意味では、芸術史的な十分にポジションを取れる。
作品も、頑張る力があると思います。
芸術史の中での自分のポジションをしっかりと把握して、
芸術競争を自覚する事です。
そして、より戦略的に自分の方法を磨き上げる。
2008-04-18 06:37
コメント(3)
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長島百合枝が如何に凄い作家か、的確に描写されていて嬉しい驚きです。大変参考になりました。
長島有里枝の初期の写真集はポルノ扱いされているのもあるようですが
実際はポルノではないかもしれませんね。
by コア (2008-04-19 19:40)
ポルノではないですね。
ポルノは《21流》です。
by ヒコ (2008-07-30 09:46)
彦坂さま、写真論楽しく拝見いたしました。
松居みどり・・・ではなく、松井みどり・・・ではないですか?
ガーリーフォトは日本独特のものではないかと思います。
全く触れられていませんが、ガーリーフォトを語るには、彼女たちの育った背景をモット勉強することが大事ですね。
ガーリーフォト=オリーブ少女 とも繋がるのですよ。
オリーブ少女、ご存知でしょうか?
生まれた年代、時代が違っても、オリーブ少女は一体であるので、年齢などは関係ない次元です。
彦坂さまが語られている写真家たちは、そういう意味で繋がっていて、一線だといえると思います。
(日本の)ガーリーフォトは、そもそも世界のアート界では全く話題になること(なったこと)はないですね。
その辺はやはり、ナン・ゴールデン等の作品の方がメッセージ性が強く、インパクトもあり、時代・社会背景をシリアスに反映しているからかもしれません。
そもそも、ガーリーフォトとナン・ゴールデンは比べ物にはならなく、カメラに向かうというか、カメラに対する意気込みが全く持って違います。
それから、これらのメンバーを論じられるのであれば写真家の川内倫子を忘れられているようです。
じゃむ
by じゃむ (2008-12-04 17:57)