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日本の沈没と、カバコフ(後半加筆) [歴史/状況論]

日本の沈没.jpg

上のグラフを見てください。
日本が21世紀になって、急速に、
タイタニックの様に沈没して来ています。

経営評論家の桐原 涼氏の『日本はもはや豊かな国ではない』という記事のグラフです。
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/news/080204_gdp/index.html

このグラクは、
昨年末に内閣府が発表した「国民経済計算確報(2006年度)」によるもので、
日本の1人当たりGDPはOECD加盟30カ国中18位となったのです。
2000年度時点では世界3位にあった日本の1人当たりGDPは、
以降毎年順位を下げ、
今では下から数えたほうが早い位置にまで低下してしまいました。

日本の順位はさらに低下する可能性が高いとのことです。

こういう変化は、美術状況にも、
大きくかかわってきます。
美術史は変化するでしょう。

日本の沈没2.jpg

上のグラフは、日本の購買力が、近年著しく低下している事を示しています。
日本銀行の統計によると、円の実質実効為替レートは、
1980年代前半の水準に戻ったというのです。
まあ、しかし、この程度の揺り戻しは、当然の事でしょう。
もっと、大きく崩れる事すら、
予想されているのです。

1980年代に、日本は、産業構造をさらに高度化し、
最先端のポジションを維持する必要があったというのです。
ところが、日本は新しい流れについていけなかったというのです。
この事は、私ですらが、実感出来たことです。
日本の現代美術も、そして日本の社会も、
新しい変化を拒絶したのです。
それが今日の没落に結びついた。

「沈む日本」という厳しい環境を生き抜く処方箋は、以下の通りと、
経営評論家の桐原 涼氏は書いています。

1)“豊かさ幻想”から脱却する
2)ドメスティック思考を断つ
3)グローバルに通用する製品・サービスを生み出す

まずは、“豊かさ幻想”から脱却することが重要。

第2に必要なのは、「日本国内で通用すればよい」というドメスティック思考を断ち切ることであるという。

美術市場も、
村上隆さんのように、海外に向かっていかなければ展開出来ない時代になったのです。
グローバル化が進む今、日本という枠に拘泥することは有害ですらあるあるというのです。
しかし、誰もが村上さんの様に動ける訳ではありません。
ささやかでも、何かをする必要があるのですが。

報道はされていませんが、
日本画や、具象洋画という伝統的な日本美術の市場が、
値崩れして来ているという話を、
業界紙の記者や、画廊筋からは聞きます。

戦後続いて来た五都展からのドメスティック美術市場が崩壊して来ている様なのです。
戦後の日本画市場は、
閉鎖的な業者だけによる市場操作で高値を維持して来ていたのですが、
その構造が、グローバリゼーションによって崩壊を始めているのですが、
それは日本そのものの沈没と軌を一にしているのです。

そのために日本画の画商や、
日本洋画の伝統画商が、
現代美術にシフトを移して来ています。
それもあって、現代アートの市場は大きくなって来ているのです。

つまり1991年のソヴィエと崩壊と、
wwwの登場による本格的インターネットの出現した1991年以降、
日本社会の芸術的趣味の大地が、
大きく地滑りを起こしているのです。
これは美術史的にも大変動であります。

こういう状況から見ると、
村上隆という日本画のアーティストが、
いち早く海外市場へ脱出していったというのも象徴的な気がします。

今こそ、日本の現代美術・現代アートのチャンスなのですが、
しかし現代アート(新派)はともかくとして、

現代美術(旧派)は、このチャンスを生かす事が出来るのでしょうか?

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■中国からの撤退

ニューズウイークの記事によると、
最近中国市場から、外国企業が撤退を大規模に始めているそうです。

一番早く数百社が撤退を開始したのは台湾だそうで、
同じ中国語文化圏で情報把握が早いのでしょう。
続いて韓国企業が数百で撤退を開始しているそうです。

つまり、中国もまた没落を開始しているのです。

この話が美術に関連するのです。

中国美術が高くなりすぎたというので、
ヨーロッパの買いが止まり、
中国の美術市場から、撤退して来ている様なのです。

そして、何と、
日本美術を買いに入って来ています。

先日のアートフェア東京2008でも、
ヨーロッパからの買いが多かったそうです。

ヨーロッパが、日本の現代美術を買いに入ると言うのも、
歴史上なかった事であります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

現在日本には、アートオークションがたくさんあるようですが、
http://www.gei-shin.co.jp/library/auc/auction.html
現代美術を扱っているものとしては
大きな所では、

シンワアートオークション、
http://www.shinwa-art.com/

エスト・ウエストオークションス
http://www.est-ouest.co.jp/

そしてザ・マーケットがあります。
http://www.themarket.jp/

この3つのカタログを見ると、
出ている作家も作品も似た様なもので、
草間弥生、李ウーハン、奈良、村上等々の若手で、
その類似性に驚かされます。

もっと驚かされるのは、
オークションの買いに入ってくるのが、
今日ではヨーロッパ、ロシア、インドなど、
国際化している事です。

日本現代美術を、海外から買うのです。

日本で開かれるオークションというのは、
戦前からありますが、
しかしその日本のオークションに
海外から競りに参加してくる時代と言うのも、
現在が、初めてでしょう。

3つのオークションの存在が、
このまま行くのではなくて、
どこかがつぶれて、淘汰されていくだろうと言われていますが、
とにかく、今まで考えられなかったような状態に、
美術市場は、なって来ています。

もっともオークション自体は、
力を持って来ているにしろ、
基本は、競りに過ぎないし、
ある意味で、博打や、闘牛・闘犬・闘鶏のような
カジノ的なものであって、
芸術の基本は、依然としてプライマリー画廊にあると言われます。

蔡國強さんは、今はどうか知りませんが、
昔、会って話したときのことでは、画廊を持たない方針だそうで、
プライマリー画廊の性格も、
相対化や変化はして来ていると思いますが、
美術界が
オークションだけに、一方的に動いている訳ではないのです。

オークションハウスは、
競りをするためには、美術作品を集めなければなりませんが、
良い作品を集めるのは、難しいのです。
何よりも、良い美術作品が、安定して生産されていかなければなりません。
その意味でも、プライマリー画廊は、
今日でも重要なのです。

それに日本のオークション会社と、
サザビーズやクリスティーズでは、
規模そのものが、3千倍くらいの差があって、
カタログを見ても、水準の差があまりに大きすぎます。

サザビーズやクリスティーズでは、
しっかりとした学芸員を大量に抱えて芸術の勉強を怠らないで、
芸術に対して学問的な高水準を刷新し続けていますが、
日本の美術界は、そもそもこうした学問性も、積極性も、厳密性も欠いていて、
その蓄積も無い、
野蛮国の状態に止まっています。

日本は野蛮主義なのです。

出ている作品も、
現代アートとは言っても、
新しい売り絵に過ぎなくて、
サザビーズやクリスティーズのオークションカタログの、
特に前半に見られる高度の芸術性とは、まったく違うものです。


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さて言いたい事は、
こうして日本が沈没している時に、
日本の現代美術を買いに、ヨーロッパが動いていると言う、
そういう歴史上初めての事態が出現して来ていると言う事です。

日本の現代美術を良く知っていてヨーロッパが買いに入ったのではなくて、
中国美術が高くなりすぎたのと、
内容的な限界に達したことがあると思いますが。

そして、すぐに、買いも止まるでしょう。

それでもなお、
日本にいる作家にとっては、
新しい可能性を感じさせる状況ではあります。

日本の沈没は、
過酷な事態ではあります。
多くの作家が淘汰されるでしょう。
しかし、
同時に、新しい美術的展開をなし得る、
チャンスでもあるかもしれません。

そのお手本になるのが1991年のソヴィエとの崩壊でした。
ソヴィエと崩壊から、多くのソヴィエト系の美術家が、
国際美術市場に出現し、
その動向の中で、スターに化けたのが、
イリヤ・カバコフでした。

水戸芸術館での個展ではお会いしましたが、
国際化に適応して伸びていく様は、
その人の良さそうなロシア人の風貌からは、
想像もつかないたくましさだと、思いました。

カバコフの思考を記述した本が日本でも出ています。
私は読んで、大きな影響を受けました。

日本沈没を、ソビエト崩壊に学べ!
そしてカバコフに学べ!
(笑い)

イリヤ・カバコフの芸術 (五柳叢書)
世界の注目をあつめる現代美術の巨匠・カバコフの主要テクストを本邦初訳。芸術とは何か、人はどのように生きているのか、ソ連時代から現在までの手さぐりの思考は、私たちに多くの示唆を与える。ロシア文学者・沼野充義の書き下ろし“カバコフ論”、カバコフとグロイスとの対話3篇を併録

イリヤ・カバコフという現代美術の巨匠が水戸芸術館でほぼその全容をあらわし、本という形で、日本の読者に理解される、画期的なことである。この本は3部に分かれる、著者による熱のこもったカバコフ論と、カバコフ自身による作品解説そして年譜である。私達は「トータル・インスタレーション」という耳慣れない「概念」を、彼の饒舌な文章やスケッチを手がかりに、まるで展覧会会場の観客のように体験し、咀嚼していく。巻末の年譜で読者は、ロシアの怒涛のような歴史と政治がウクライナ生まれのユダヤ人に与えた仕打ちを知り、「芸術」がその隘路でどのように表現されたかを知る。ダイナマイトである。(田口久美子)
『ことし読む本いち押しガイド2000』 Copyright© メタローグ. All rights reserved.

http://www.amazon.co.jp/イリヤ・カバコフの芸術-五柳叢書-沼野-充義/dp/4906010873/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1208731251&sr=8-2






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コメント 1

コア

一目瞭然、まるで流れ星のごとくですね。
あまりに分かりやすくて笑ってしまいます。
グラフだけ観ると分水嶺は2003年ですね。
by コア (2008-04-21 01:07) 

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