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議論のゆりもどし [アート論]

今回の世界的な経済危機の原因についての、アメリカでの議論に揺り戻しが起きています。米国の金融危機は自由放任の結果ではないとする議論が、起きて来ているというのです。

金融危機のショックやパニックがやや収まってきていて、「何が金融危機を起こしたのか」という議論が、最初の「自由放任策がこの危機を招いたのだ」するものから、反対の方向に振れてきているのだという。

国際問題評論家 古森 義久氏が次の様に書いています。

 今回の金融危機は「小さな政府」策の過剰ではなく、逆に「大きな政府」が原因となって起きたのだ、という主張が次々に打ち出されてきた。政府の民間市場への介入や規制こそがこの危機を生んだのだ、とする説である。中でも特に注視されたのは著名な経済評論家のジョン・スティール・ゴードン氏がニューヨーク・タイムズに発表した「金融混乱=強欲、愚鈍、妄想、そしてさらなる強欲」と題する論文だった。

 米国の金融の歴史の権威としても知られるゴードン氏の分析の骨子は以下のようだった。

 ▽今回の金融危機の直接の原因となった住宅市場の崩壊はファニーメイとフレディマックという政府系住宅金融会社の責任が大きいが、この二社とも資本主義が実行されるニューヨークではなく、政治都市のワシントンに本拠を置くことからも明白なように、政治性が徹底して強い存在だった。

 ▽ファニーメイもフレディマックも政府や議会の強力な支えによって運営され、事実上の「政府が保証する存在」として住宅にかかわる民間の投資や投機を煽る役を果たした。その結果、経済や金融の大原則である「欲」と「リスク」のうち、「リスク」が政府の事実上の保証という不自然な要素によって極端に薄められ、「欲」ばかりを奨励することとなった。

 ▽両社とも民主党のクリントン政権時代に特に活発に機能して、同政権高官が政治任命で次々に両社の最高幹部に任命された。特にファニーメイは天下りしてきた元高官たちに法外な巨額の報酬を払うと同時に、政府の支持を堅固に保つために議会民主党のクリス・ドッド上院銀行委員長らへの大口政治献金の供与を続けた。

 以上、要するに米国の住宅市場では「大きな政府」の産物である「政府保証の大企業」が市場原理に反し、それを無視してまで、無理な貸付、不自然な融資を煽ったために、バブル崩壊のような破綻を招いた、というのである。自由放任ではなく、政府の保護と介入が住宅市場に人工的なバブルを生んでしまった、と指摘するわけだ。

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 もう一人の著名なエコノミストのピーター・シフ氏は「政府の介入こそが今回の危機を招いた」という見解をさらに強く表明した。シフ氏は今から2年半前に「住宅市場のバブル崩壊」の予測を打ち上げていた。その予測が今回、的中して、いま改めて脚光を浴びることとなった人物である。シフ氏はこの10月中旬、ワシントン・ポストに「資本主義を責めるな」というタイトルの論文を寄稿したのだった。趣旨はタイトルからも明白なのだが、冒頭でまず以下のように書いていた。

 「この危機はウォール街の強欲を規制することに政府が難色を示したために起きたという認識がほぼコンセンサスのようになった。従来は政府の介入を忌避してきたエコノミストたちも、資本主義の破壊的な力を抑制する、より強固な規制の枠組みを築くことに賛成するようになった。とくに長年、その種の規制を主唱してきた政治的左派にとっては、いまの危機は生涯でも最善の好機だろう」

 「しかしその種の結論に欠けているのは、今回の危機を生み出すうえで政府が果たした決定的な役割である。政府の指導者たちは、国民に対して、非合理に住宅購入を扇動し、貯蓄を止めさせ、資金の借り入れや貸し出しを無謀に奨励して、住宅市場を侵食してしまったのだ」

 まさに「大きな政府」の介入が金融危機の元凶だというのである。

 シフ氏の論文の要旨は次のようだった。

 ▽金融危機を直接、発火させた形のサブプライムローン(低所得者向け高金利型住宅ローン)の焦げつきも、政府が介入と保護により借り手の側に債務にともなうリスクを不自然に少なくみせて、投機的な住宅購入への異常な需要を創出させた結果だった。

 ▽政府のその不自然な介入の具体例はローンの利子負担の税控除や、不動産売買によるキャピタル・ゲインの課税免除だといえる。これらの政策措置の結果、一般の住宅への投資や投機が市場原理を抑えて拡大した。

 ▽ファニーメイやフレディマックに関しても、政府の事実上の保証によりリスクが少ないという誤った印象を住宅購入側に与えた。市場原理が自然に機能すれば、無資格の購入者はふるいにかけられ、住宅価格の値上がりが個人所得の伸びをはるかに超えるという事態を防いだはずだ。

 以上、シフ氏もまた、政府がそこまで大きな役割を演じなければ、破綻はなかっただろう、と説くのである。つまり自由放任ではなく、政府の介入こそが金融危機の原因になったというわけだ。もちろんその政府の介入の方法が間違っていたということだろう。

 当然ながら米国からいまや全世界にも波及した金融危機の原因を単純なプリズムで分析することは避けるべきだろう。だが当初にどっと広まった「自由主義の行き過ぎが危機の原因」という見方にも、これまた欠陥や矛盾があることをシフ氏やゴードン氏の見解は証明しているようなのである。

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 こうした議論の揺り戻しと、変化は、私には興味深く読めます。表面の部分は、私がこのブログで書いて来た論調の訂正なり、変更を余儀なくさせる面もありますが、しかし、根本の所では、《象徴界》の抑制が外されて、《想像界》が暴走をしたという基本は、変わらないからです。つまりアメリカ政府が、リスクを不自然に少なくみせたために、暴走がおきたという指摘は、私の主なる主張である、《象徴界》の復権というものと、同一の結論になるからです。ただそれが、外部の規制ではなくて、より強い自己責任論に結果するものではありますが・・・。

 私の議論は、専門家の研究や論理には敬意を払うというのを基本にしていますから、こういう揺り戻しは揺り戻して読んで行くし、それを通して、また考えて行きます。

 あるコメントにお答えした様に、私は村上隆さんや奈良美智さんの作品が、歴史的に存在して来ている事を認める立場です。美術史そのものは、膨大な駄作や、下品なものを生産しながら展開して来ているのであって、その玉石混合は事実であり、それが人類の美術史なのです。ですから美術館は、これらの大量の多様性のある美術を収集するのであって、私はそれを基本として認めているのです。

 Chim↑Pomの作品をくだらないとか、泡であると否定なさる方の気持ちは良く分かります。しかし美術史や、創造の戦いというのは、多くの無駄とも思える試行錯誤の中から初めて可能なのであって、彼らの作品の果敢さは、十分に認めて良いのだと思っています。特に,グループ活動をとることで、彼らの内容には個人の作家の持つ限界を超える多様性があったのです。この多様性のある質を評価すべきであると思います。

 作家の制作の寿命は、短いのであって、5年、正味は3年です。ですから普通の作家は、見る見るうちに作品が劣化して、つまらないものに転落して行きます。その意味で、空しいものなのです。才能のある作家は、夏草のように生えて来ますが、大木には成長して行かないのです。 

 大木に成長するためには、この3年の寿命を超えるための方法を学ばなければならないのです。

 さて、いよいよアメリカ大統領選挙で、世代が交代するのでしょうか?

 新しい時代が、善かれ悪しかれ、始まります。私は能天気なので、新しい時代が好きです。もっとも、時代の敷居を超えるのは大変なので、それが自分に出来るかどうかは分かりませんが、その努力をし続けたいと思います。

 話を戻すと、現在の経済界の議論を見て行かないと分かりませんが、しかし単純な新社会主義になるよりは、新自由主義の次元が刷新される方が、文化的には納得の行くものではあります。ブッシュの放任経済を批判したオバマが、もしも大統領になったとしたら、どのような経済政策をとっていくのか、興味深い所です。私自身はオバマに対しては、批判的なので、距離をとって批判的に見て行くと言う態度になります。

 


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honba

「象徴界」の機能が近年弱まっていたという意見は、いろいろな人が(たとえば東浩紀氏なども)最近言うようですが、一方、社会形態の如何に関わらず、人間社会がある限り象徴界の機能も同時に必ずある、というのが精神分析の立場なのではないでしょうか。
またラカンを使い、歴史主義の立場から、芸術の格付けなるものをされているとのことですが、彦坂様は、精神分析の「無時間性」についてはどのようにお考えなのでしょう?
by honba (2008-11-05 12:27) 

田代睦三

彦坂尚嘉様

このような場から、突然テーマと関係ないご連絡をして申し訳ありません。
お聴き及びかもしれませんが、真木・田村画廊の山岸信郎さんが一昨日亡くなられました。平安祭典葛西会館にて本日夜お通夜、明日朝告別式の予定です。
もしこれまでどなたからもお知らせがなかった場合には(ここに私の連絡先を書くわけにもいきませんので)、お知り合いの方どなたかに連絡を取っていただければと思います。
これをお読みになったら、このコメントはどうぞ消して下さい。
失礼致します。

by 田代睦三 (2008-11-06 12:32) 

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