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糸崎公朗さんとの往復コメント(加筆2写真追加) [アート論]

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ホトモという建築の立体写真の作品や、昆虫写真で有名な糸崎公朗さんとのコメントの
やり取りを、まとめました。

琴平でも、糸崎さんからは、多くの刺激をもらいました。
私とは正反対の視覚を持っておられる観察者です。

私も観察者ですが、私の場合は、芸術オタクなのですね。
ところが彼は、路上系でして、
私が見向きもしない様なものを見つけて、
しかも丁寧に、深く観察している。

しかしこの正反対の糸崎さんの作品と、その精神に、
私は感動できたのです。
凄いもので、《超1流》です。
《超次元》という言葉の方が良いかもしれません。

私も、建築系の人たちと街歩きはしていて、
その面白さは知っていますが、
しかしそれは多くの人と歩く事であって、
一人での散歩は、私は苦手でした。

糸崎公朗さんは、散歩の達人で、
散歩する事で、作品を作っておられる。
その秘訣を、糸崎さんを知る事で、
少し分かって、
犬の散歩の時に、私も糸崎さんを真似する様にして、
小さなものや、つまらないはずのものの神秘を見つめる様になって来ました。

重要な事は、外部を観察すると、その世界は深くて、
表面で見える背後が、良く分からないけれども、
あると言う事です。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 だんだん分かってきたような気がするのですが、彦坂さんがおっしゃる美術というのは「エリート主義」ですね。
「良いもの」を選抜するのはエリート主義で、それは美術としては全うともいえますが、しかし現代の日本でエリート主義はある意味時代錯誤ですから、そこに齟齬が生まれているのではないかと思います。

 彦坂さんがおっしゃるのは、美術においてエリート主義が失われ、それでここの作家の作品の仕上がりが「甘くなる」ということでしょうか?
 西尾さんは、ぼくはデッサン力も造形力も非常にある作家だと思いますが、(彦坂さんが見るところ)誰もその「甘さ」を指摘しないから、歴史上の絵画と並べて「弱い」ままに留まっている、ということなのでしょうか? 
by 糸崎 (2008-12-25 14:32)  

糸崎様
コメントありがとうございます。エリート主義という批判は、初めて受けました。ずいぶん昔ですが、PHスタジオの池田修さんが、Bゼミの私の学生であった時に、「彦坂は本物主義だ」と強い批判を受けました。ことば通りの「本物主義」であるかどうかは、私はちょっと納得できないところがありました。当時サルサを聞いていましたが、ラテン音楽の本物主義の人々は、キューバ音楽を評価していて、私の聞いていた様なプエルトリカンのサルサは、偽物として相手にしていなかったのです。
 糸崎さんが言う様に、私が文字通りの「エリート主義」であったのなら、おそらく私は糸崎公朗さんの作品を、高くは評価しないでしょうね。あるいは田嶋奈保子さんの作品や、先日アートスタディーズで取り上げた秋元珠江さんを評価をしないと、思います。
 しかし、批判されることは良いと思います。言われた通りの者になろうと言うのが、私の方法で、これは昔かいた「美術家であること」という文章に書いています。「暴力学生!」と言われれば、それになるのです。ですから「本物主義!」といわれれば、本物主義者になる。「エリート主義!」と言われれば,エリート主義者になって行く。ラカン的に言えば、人は常に他人の欲望を生きて行く者のことなのです。 
by ヒコ (2008-12-25 18:06)  
ヒコ
糸崎様
 追加です。
 「時代錯誤」というご指摘は、日本の現実の中では、その通りです。しかしそれは日本の特殊性だけではありませんが、しかし私の主張そのものは、オーソドックスなものです。オーソドックスな考えが、孤立してしまうと言う所に、日本の美術界の退廃があります。 
 「西尾さんは、ぼくはデッサン力も造形力も非常にある作家だと思います」というご意見は、普通の意味では、その通りであると思いますが、しかし、まともなデッサン論を知っている人から見れば、西尾さんのデッサンは、素人主義の優良なものに過ぎません。あれでは昔の大学受験では落ちてしまいます。今は、知りませんが。
 一番いけないのは、立っている女性の、見えない背中が描けていません。こういう指摘は、昔のデッサンの教師が言う、基本的な意見なのです。そういう意味で、古典的な常識的な美術教育を受けていない作家が西尾康之です。
 彫刻については、私は彫刻教育をプロとしては受けていないので、私の彫刻を見る目は甘いです。そのことは、知っています。ですから私が言うのは、おこがましいですが、ここに図版として掲げた作品の頭部で言えば、髪の毛に隠れている部分に耳があるはずですが、それが作られていない。つまり髪の毛だけが見えていても、その髪の毛の向こう側に耳の存在が感じられる様に作られていないのです。これは細部ですが、もっと言えば、顔の下の頭蓋骨が作れていません。これも、指摘としては古典的な視点に過ぎず、私にはオリジナリティがあるわけではありません。
by ヒコ (2008-12-25 18:22)  


お返事ありがとうございます。

「エリート主義」という指摘はちょっと外れていたようで、申し訳ありません・・・
ぼく自身も、アートの価値判断を「グルメ」に例えて捉えていたのですが、ぼくの中でグルメは「良いものを選別する」という意味で、エリート主義と結び付いていたのです。
ただ、「エリート主義」の言葉の意味内容を、お互いがどのように捉えているかについての確認(あるいはすり合わせ)が、ネット上のやり取りだけでは困難ですので、とりあえずは使わないのが無難かと思います。

デッサンについて「裏が描かれていない」とか「空間が描かれていない」とか、受験の石膏デッサンでぼくも言われましたが、自分は早い時期に絵画を断念しましたので、「見る目」も養われていないと言えます。
つまり、西尾さんのデッサンについて「見えない背中が描けていない」と言われても、よく分からないのが正直なところです。
さらに、岡本太郎の「芸術は上手くあってはならない」に代表されるように、現代のアートの良し悪しにデッサンは関係ない、という風潮がありますから、「デッサンで絵を見る」こともしなくなってますね。 
by 糸崎 (2008-12-25 20:23)  


このお返事が、下記損ねているみたいなので、ここに書いておきます。
グルメの話は、面白いですね。
実際、琴平で一緒に食事をして、糸崎公朗さんの舌は、私よりも格段に良いです。感心しましたよ。
13_b-1.jpg
西尾さんのデッサンは、ひどいものです。
たとえば、頭と首と胴体は、首の骨でつながっているのですが、
それが描けていません。
同様に、手と、ひじと、肩とつながる腕の構造が描けていません。
お尻の腰の構造も描けていません。
ガラス戸の向こうへの空間が、描けていません。
幽霊の女性の背中と、後ろの家の壁との間にある空間が描けていません。
こういう指摘で、なにを言っているかというと、
表面で見える視覚の向こう側に、見えない構造の組み立てがあると言う、
そういう認識を欠如させて、視覚的なるものを扱っているという、
意識の粗雑さです。
彦坂尚嘉

 

>芸術の善し悪しは、素人の判断に、任せる時代なのです。
>すべてを、素人に任せる。
>そういう時代が、いま、出現しているのです。

そう言われると、まさにそのような状況であるように思えるし、それが「ポストモダン状況」なのかな?とも思えます。
プロフェッショナル=「大きな物語」が共有されなくなり、素人による「小さな物語」が乱立する時代・・・というのは単純化しすぎでしょうか?
そういう状況の中で、ぼくは意図的に「素人」を目指しているのだといえるかもしれません。

彦坂さんが以下の記事のコメントに書かれたこと
http://hikosaka.blog.so-net.ne.jp/2008-12-24

>つまり、プーサンに限らないのですが、絵画として高度な達成をしているアーティストの作品は、実は、哲学書がむずかしいのと同様に、むずかしいのです。

は非常に興味深いです。
ぼくは「哲学」のセンスがまるでなく、専門書が読めずに入門書ばかり読む素人です。
素人が、素人なりに何か物事を考える上で有効なのは「ブリコラージュ」ということで、ぼくはそれをブログ上で実践しようと試みています。
ぼくは「偉大なるアマチュア」を目指して「トンデモないトンデモ理論」を構築しようとしており、その上でアートを語ろうとしているのかもしれません。
これは彦坂さんという比較対象があって、見えてきたことです。
ただ、現代のほかのアーティストが、どのような立場にいるのかはよく分かりませんし、それはそれで興味のあるところです。

現代は素人の時代なのかもしれませんが、しかし哲学や思想、科学や技術の世界は、プロと素人の差が歴然とあるように思います。
「何の基礎知識もない素人でも、センスがあればプロになれる」なんてことは、哲学や科学の分野では聞いたことがありません。
しかしアートの分野では、当たり前のように「誰でもアーティストになれる」というように言われます。

実は技術の分野では、「誰でも技術者になれる」方法論があり、それがブリコラージュです。
技術的なブリコラージュは「基礎」ができていない素人でも、「機能」を実現させる方法論です。
技術的なブリコラージュは、以下のページでぼくが連載してますので、ご参照ください。
http://dc.watch.impress.co.jp/cda/labo_backnumber/

技術的なブリコラージュはあくまで「素人工作」であり、プロ(メーカー)が生み出す「製品」とは区別されます。
しかし現代のアートは「ブリコラージュ」が基本となっていて、それが他の分野と比べて独特のあり方をしている、と言えるのかもしれません。
ブリコラージュは「基礎」や「原理」の問題を飛び越えて、ひたすら「機能」を目指します。
現代のアートを彦坂さんが、「だまし絵」「インチキ」と批判されるのは、それが「機能」に特化したブリコラージュの産物だからなのかもしれません。
ただ、現代のアートがブリコラージュ的であったとしても、ぼくの立場ではそのこと自体に良し悪しの判断を下すことはできません。
ぼくは状況がよく分かってないので、とりあえず観察する他はありません。 
by 糸崎 (2008-12-25 21:33)  

ヒコ

糸崎公朗様
コメントありがとうございます。
大きな物語が成立しなくなったのは、私見では、気体分子化したからであると、水の比喩で、その様態変化で、歴史を考えます。ですから、近代というのは、実は単純系の世界で、水が流れる川のような背界でした。それが、水が沸騰して、気体分子化した。話は逆で、気体分子化したから、大きな物語が消えて、小さな物語の集積になったのです。
その結果として、素人の時代になった。専門家が解体されたと言う面と、専門家は、実は裏方になったという問題があります。

『「何の基礎知識もない素人でも、センスがあればプロになれる」なんてことは、哲学や科学の分野では聞いたことがありません。
しかしアートの分野では、当たり前のように「誰でもアーティストになれる」というように言われます。』と言うご指摘は、面白いです。適切なご指摘だと思います。しかし本当に、そうなのか?

ブリコラージュ論は、おもしろく拝読しました。ご指摘が正しいのかもしれません。しかし糸崎公朗さんの作品は《超1流》ですが、ご指摘のブリコラージュ的な絵画は《第6次元》です。この差をどう説明するのか?

たぶんブリコラージュでつくると《ローアート》になるという結果の仕方はあると思います。私自身は、《ハイアート》を主につくりますが、《ローアート》も好きです。差別する気持ちは、私にはありません。

糸崎公朗さんの作品が《超1流》なのは、意識の性です。世界を観察するその眼が、私と共通していると言えます。私も、世界の観察者です。ですから、実は今の様なインチキな時代も、金融危機の時代も、観察するものとしては、面白いのです。
もしかすると、観察者が《超1流》性をもった《超次元》にいるのかもしれません。つまり《超次元》とは、社会の観察者の領域なのかもしれません。 
by ヒコ (2008-12-26 01:20)  

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここからは、文面の中に書き込みます。明日から四国で、本日は、別のラカンの読書会に出席で、さすがにあまり時間がありませんので、少しの書き込みです

木型表2-2.jpg

 

 

 

この作品は、正直なところぼくもぜんぜんわからないです(笑)
例えばこれが彦坂さんの作品ではないとして、それを彦坂さんが「こんなのはデザインに過ぎない」と批判されれば、ぼくは「そうかな」と思ってしまいそうです。
逆にこれが《超一流》と言われても、どうもピンときません。
しかしそういう「分からなさ」が、彦坂さんの面白さで、どうにも惹きつけられると言うか、捉われてしまいます。

 

 

この作品を、糸崎公朗さんが分からないと言うのは、わかります。それにこの作品を良いと言う人は、少ないと思います。
一つの問題は、会田誠さんもそうですが、抽象美術がわからない。
たぶん、糸崎さんも、分からないのかもしれません。
私のこの作品が、古典的な抽象画ではありませんが、その脱ー構築作品ではあるのです。


小山登美雄さんが自著で「ジャスパー・ジョーンズの作品は何だか分からないところに魅力がある」と言うように書いてましたが、それとはちょっとニュアンスが違うような気がします。

 

彦坂尚嘉の私見を申しあげれば、ラウシェンバーグは《超次元》の作家ですが,ジャスパー・ジョンズは《第6次元》の作家で、ずいぶんと落ちる作家です。ジャスパー・ジョンズは本物の作品を見て行かないと、判断を間違えます。本物が良く無いのです。印刷には良く乗るので,印刷で見て、過大評価するのです。

彦坂さんは色々と独自の発言をされていて、その内容自体が分かりにくくて「謎」だと言うことと、発言と作品が一見して結び付いていないように見える「謎」があるように思います。

 

私自身は、分かりやすく書く努力をしているので、分かりにくいと言われると、なおさら、分かりやすく書く努力をしなければ、と思います。私の言っている事は、良い作品を実際に見て行く事の中で書いているのであって、その事が、糸崎さんには分かりにくいのではないでしょうか。

発言と、作品が結びつかないと言うのは、これも正確ではなくて、結びついているのです。私自身は、たとえばたくさんの具象画、プーサンのような深いイリュージョンの絵も見て来ていますが、だから、そういう絵画は、描かないのです。そういう形で結びついているのです。特に《超1流》の作品を真似する事は意味がありません。絶対に超えられないからです。《超1流》の作品を見て評価するということは、同時に、そうした作品は、自分では作ろうとしないという、そういう結びつき方をしているのです。

これは美術の問題と言うより、哲学や現代思想の問題に近いのかもしれません。
哲学や思想の入門書は、できるだけわかりやすく実用的に書かれていますが、原著と言うのは簡単に分かりようのない「謎」として提示され、それゆえに多くの専門家を惹きつけるようです。
ぼくは「入門書」しか読めないので、「謎」に惹きつけられる感覚がいまひとつピンと来なかったのですが、彦坂さんとの関係がそのようなものに近いかも?と思ったりしてます。

 

私ももちろん、入門書は読みますが、読書会を、いくつもしているのは、実際に原書を読まないと、本当の事が分からないからです。


>おたがい、勝手ですから、自分は自分の眼で判断して、素人や、勉強をしない人は、相手にしない。

これはまさにその通りだと思いますが、実のところ相手を「素人」「勉強をしない人」などと批判した時点で、相手との「関係」が発生するような気がします。
つまり批判した相手には「お互い、勝手ですから」と納得してもらうのは、実に難しいのではないかと思い、そのことで自分も悩んでいます。

 

同感ですね。
こうした悩みは、しかし解消はされません。
どちらにしろ、2種類の人がいるのです。

一つは、天然で、自然性を第一義に、万能感を抱えて、生きている人々。
かれらは、自分が一番偉く、すべてを自分が判断できると信じています。
そういう人は、直接性が好きで、そこに深い意味があると信じている。
これらの人々は、芸術の名前のもとで、デザインワークを、良いと信じている人々です。

もう一つのタイプの人々は、直接性を抑圧して、文明人として生きようとする人々です。
彼らは、自分が万能ではない事を知っていて、認めています。

最近、内田樹さんを経由して仕入れた、白川静さんの「世界は祝福と呪詛で満ちている」という考えに影響を受けています。
これによると、彦坂さんのおっしゃる「素人の時代で良いものが評価されない」と言う状況は、「素人の判断が祝福されている反面、プロの判断が呪詛されている」と言い換えることができます。
それで彦坂さんは、この「呪詛」を祓うために「プロの判断を祝福し、素人の判断を呪詛する」ための文脈を打ちたて、それが「アートの格付け」ではないかと思います。

 

そのように判断なさっている事は、無理も無いというか、正しいとは思いますが,厳密には違うのです。私は「呪詛」はしていないのです。美術史そのものは、基本として玉石混合であって、このことは認めています。私の主張はむしろ、多様性を認めなければならないと言う事です。《超1流》の優良品を排除し、すぐれた才能を殺して行く様な、同質性による多数者の暴力に抵抗しているのです。

多数者だけの同質性の社会は、集団自殺をする危険なものです。少数の異質な人々や、異質な高度の表現を、許容する社会を望んでいるだけです。(これ以降は、帰宅後に書きます。)

《第6次元》の自然世界が、人間の生活の基本である事は確かです。しかしこの領域を抑圧して行かないと、同時に文明としての芸術は、真の意味では成立して行きません。自然のままにだけ、生きて行く事は出来ないのです。

「アートの格付け」は、彦坂さん流の《超一流》アートを「祝福」するための文脈なわけです。


しかし一方を祝福すると、結果的に一方を呪詛することになり、そうすると自分に対する更なる「呪詛」が生じてしまいます。
このような「呪詛」のエスカレートを当たり前のこととして問題視しない態度は、全うで正しく潔いことであり、その意味でぼくは中島義道さんに非常な共感を覚えるのです。

 

《第6次元》の作品や、デザイン的エンターテイメントの作品を、「呪詛」しているように見える事は、自覚しています。が、しかし原理的に、《第6次元》の領域は自然領域で、《6流》の食べ物も普通に食べているし、それを無くそうなどとは考えていないのです。私と中島義道さんとは、まったく違う態度です。

それでぼくもこれを実践してみたのですが、どうも自分のような「小者」では身が持たないことが判明しました。
ぼくが提唱する「非人称芸術」は、原理的に全ての「人称芸術」を否定するため、これを主張するとすべてのアーティストとケンカになってしまいます。
これはあらゆる人間関係が破壊されるばかりで、ぼくがアーティストとして生きていく上での阻害要因となってしまいます。
ただ、自分の主張に妙な「妥協」を入れるとコンセプトが弱くなりますから、これも本末転倒です。

最近、ぼくが重要かもしれないと考えているのは、「自分が呪詛するものを、相手はどのように祝福するか?」を知ることです。
その意味で、彦坂さんの「格付け」や「皇居美術館」は、人称芸術に対する最大の「祝福」であり、かなり納得しました。
「非人称芸術」はその文脈上、結果的に「人称芸術」に対する「呪詛」として作用する可能性を持ちます。
しかしその「人称芸術」に対し、彦坂さんが全く別の文脈で「祝福」を行なっているわけです。
そしてこのように「祝福と呪詛」に対する全く別の文脈を並置することで、それぞれに掛けられた「呪詛」が上手い具合に解消されるのではないかと、そんな気がしています。
異なる文脈同士を妥協して混ぜ合わせるのではなく、異なる文脈を並置することで「呪詛」を解消する、と言う方法論です。
その意味で、琴平でのぼくの「フォトモ」と、彦坂さんの「皇居美術館」の対比は、非常に興味深いものだったと思います。

 

同感です。原理は正反対と言ってもいいものなのですが、しかし、糸崎さんのホトモは、良かったです。私は、まったく「呪詛」なんかしていません。異なる文脈を並置すること」というのは、私の方法でもあります。たとえば、次回のアートスタディーズでも、ゲスト講師として椹木野衣さんを私が推薦して、今、交渉中であります。引き受けていただけるかどうかは、分かりませんが、私は批判しているからと言って、相手を抹殺しようとしているのではないのです。そういう風に読めてしまうとか、聞こえてしまう面が、多々あることは認めますが、私自身の価値観は、そうしたものであって、批判は批判、批評は批評であって、それ以上ではないのです。もちろん、そう、簡単にも行かない事は事実ですが、しかし、それでも、実は私は穏健な人なのです。今回の糸崎公朗さんとの交流は、そういう私の穏健さが、巧く発揮できて、たいへんに、良い時間を過ごせました。


以上、勝手な思いつきで申し訳ありませんが、色々触発されてしまうのです・・・ 
by 糸崎 (2008-12-26 16:41)  



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糸崎

> 西尾さんのデッサンは、ひどいものです。
> たとえば、頭と首と胴体は、首の骨でつながっているのですが、
> それが描けていません。
> 同様に、手と、ひじと、肩とつながる腕の構造が描けていません。
> お尻の腰の構造も描けていません。
> ガラス戸の向こうへの空間が、描けていません。
> 幽霊の女性の背中と、後ろの家の壁との間にある空間が描けていません。
> こういう指摘で、なにを言っているかというと、
> 表面で見える視覚の向こう側に、見えない構造の組み立てがあると言う、
> そういう認識を欠如させて、視覚的なるものを扱っているという、
> 意識の粗雑さです。

まぁ、このように指摘されて、やはり正直なところそれがピンとこないのです。
それだけぼくの絵に対する意識が粗雑なのだと思います。
前にも書きましたが、ぼくの時代からはもう「デッサンは芸術の価値にあまり関係ない」とされてましたから、彦坂さんが言われることは非常に新鮮です。
恐らく西尾さんくらい才能のある人であれば、ちょっと意識して努力すれば、彦坂さんが指摘された問題はクリアーできるはずだと思います。
しかし、それを西尾さんが受け入れるかどうかは不明ですし、その必要があるかどうかも今のぼくには不明です。
ともかく、西尾さんはとても勘の良いアーティストなんだと思います。
勘が良いから適当に描いて、それらしく見せることができる。
これは以前、彼の昆虫を題材にした立体作品を見て思ったのですが、彼の昆虫は解剖学的にはデタラメなのにもかかわらず、昆虫独特の雰囲気を上手くつかんで生き生きといてました。
昆虫を単に解剖学的に正確に再現するより、適当に作って「らしさ」だけ表現するほうが、ある意味高度なのではないかと思い、それが西尾さんの才能なんだと思いました。
ブリコラージュが非常に上手い、現代的な作家と言えるかも知れません。
しかしぼくの個人的な感想はさておき、彦坂さんがぼくの理解し得ない「アートの基準」を示してくれたことは、非常に興味深いです。
理解できるかどうかはともかく「自分の理解の外にも世界が広がっている」ということの意識は非常に重要だと思います。

> 糸崎公朗さんの作品が《超1流》なのは、意識の性です。世界を観察するその眼が、私と共通していると言えます。私も、世界の観察者です。ですから、実は今の様なインチキな時代も、金融危機の時代も、観察するものとしては、面白いのです。
> もしかすると、観察者が《超1流》性をもった《超次元》にいるのかもしれません。つまり《超次元》とは、社会の観察者の領域なのかもしれません。

これで気付いたのですが、ぼくは「見ないで描ける人」に非常にコンプレックスを抱いてました。
ぼくは「見てその通りに描ける」のは訓練すれば誰でもできることであって、「何も見ないで現実にないものを描く」のが芸術の才能だと捉えてました。
だからぼくは自分の才能に失望し、その反動で「観察者」の側に徹底したのだと言えます。
一方で、ロランバルトの「作者の死」以降、アートの価値は観察者が創造することにもになってます。
しかし現代の美術教育は「自分の気持ちで見てみましょう」とは言っても「観察眼を鍛えましょう」とは言わないんじゃないかと思います。
彦坂さんの「観察眼」はぼくとはまったく違う方向で、だからぼくには新鮮です。
それと同時にぼくは、西尾さんのように「見ないで描ける」ブリコラージュ的なアーティストも尊敬してしまいます。
ぼくはカメラ改造や、理屈をこねたりすることは「ブリコラージュ」でやってますから、ブリコラージュ的なアーティストも尊敬するのです。
そして彦坂さんは、ブリコラージュを主体としない、ぼくが今まで出合ったことのないアーティストなのかもしれません。

> この作品を、糸崎公朗さんが分からないと言うのは、わかります。それにこの作品を良いと言う人は、少ないと思います。
> 一つの問題は、会田誠さんもそうですが、抽象美術がわからない。
> たぶん、糸崎さんも、分からないのかもしれません。
> 私のこの作品が、古典的な抽象画ではありませんが、その脱ー構築作品ではあるのです。

ぼくがどのように分からないかは、分かった気がします。
つまり、いろいろなアートを見ることを通して、いずれ分かるだろうということですね。

> 発言と、作品が結びつかないと言うのは、これも正確ではなくて、結びついているのです。

これは分かります、というか、理屈のうえでは結び付いているのだろうなと想像できても、実際の自分の目でその結びつきが計り知れない、ということです。
素人に簡単に分かるようでは深みがないということで、そのロジックに惹きつけられるような「謎」も存在しえません

>特に《超1流》の作品を真似する事は意味がありません。絶対に超えられないからです。《超1流》の作品を見て評価するということは、同時に、そうした作品は、自分では作ろうとしないという、そういう結びつき方をしているのです。

そう言われると、構造上はぼくも同じ態度です。
ぼくの作品は真似ではなく、完全縮小コピーですから・・・
以前「トマソンを取り入れた建築」として、意図的に「高所ドア」や「無用階段」をしつらえた建築がありましたが、そんなものは愚の骨頂です。

> 私ももちろん、入門書は読みますが、読書会を、いくつもしているのは、実際に原書を読まないと、本当の事が分からないからです。

読書会と言う手法は選択肢から外れてましたので、いつか参加してみたいです。

> そのように判断なさっている事は、無理も無いというか、正しいとは思いますが,厳密には違うのです。私は「呪詛」はしていないのです。美術史そのものは、基本として玉石混合であって、このことは認めています。私の主張はむしろ、多様性を認めなければならないと言う事です。《超1流》の優良品を排除し、すぐれた才能を殺して行く様な、同質性による多数者の暴力に抵抗しているのです。

それでもどうしても「呪詛」してるように捉えられてしまうのです、彦坂さんの言葉は厳しいですから(笑)
by 糸崎 (2008-12-30 14:19) 

ヒコ

糸崎様
絵画の一番難しいところを、糸崎さんの、このコメントのやり取りで教えることは不可能です。手取り足取り、教えても無理です。
だから良いのですよ。糸崎さんが高く評価する作家を、私が駄目だと言って、それはそれで意見が食い違ったままで行くしかありません。
by ヒコ (2008-12-31 21:42) 

ヒコ

呪いというのなら、呪いでも良いですが、呪いで書く文章の幅というものがあって、それは私には興味がありません。古いと思います。
by ヒコ (2008-12-31 22:13) 

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Benjamin

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