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コスモスとカオス [アート論]

2007年12月13日(木)

 話を昔に戻す。

 人間が農業を始める前の自然採取段階では、小さな群れを作って移動しながら暮らしていたが、そこではその集団という共同体の内部がコスモスであった。
 
 「コスモス」というのは《秩序》であって、整然とした統一体としての、宇宙、または世界を意味する。つまり共同体の内部が《秩序》であって、その外は《カオス》であった。
 
 こういう共同体の小グループがいくつも移動しながら存在していたのだが、そのいくつもの共同体の間で、ぶつぶつ交換がされるようになる。
 
 原初的なものは「沈黙交易」と言われるもので、取引をする双方が,姿も見せず言葉も用いることなく行った。ある決められた場所に品物を置き、合図をして姿を隠すと、取引相手が現われて等価と思われる品物を、相手の品物の傍に置いて去る。取引の両者が相手の品物に満足すれば、相手の品物を持ち帰り、交易が成立する。

 つまり交易という《商業》の発生は、共同体に内部で発生したものではなくて、共同体と共同体の間で生まれている。つまり共同体というコスモスの外の《カオス》で生まれたという起源があるのである。
 
 《コスモス》というのは秩序であって、[きれい]な場所なのだが、《カオス》は[汚い]場所なのだ。だから《商業》は[汚い]場所から生まれたから、[汚い]ものであるという、そういう先入観がつきまとうことになる。
 
 《商業》というのが共同体の外部にあるということは、画商の歴史にも言えて、ヨーロッパでは画商は、十七世紀のフランドル地方で生まれ。
 レンブラントの時代である。
 その最初は輸出画商として始まる。美術品が輸出産業になって、美術の工房が、パン屋の数よりも多くなったと言われる。輸出産業として生まれた画商は、その後、共同体の内部に折り返されてくる。

 たとえばレオナルド・ダ・ヴィンチは、宮廷美術家で、身分としては宮廷奉仕員であったから、王様と直に接して美術を生産していた。つまり画家と美術のコレクターは、直に接して取引をしていた。
 近代になると、この美術家という美術の生産者と、コレクターという美術の消費者の間に、第三勢力の画商と批評家が割って入ってくる。
 そうなることで美術家とコレクターは直には接しなくなって、画商を介して売買をするようになる。
 これが近代社会の構造で、つまり共同体の外部にあった商業空間が、共同体の内部に折り返されて入ってきて、人々の関係を市場が引き裂くこういう近代社会の構造が、さらに拡大したのが今日の市場社会である。
 
 割って入ってきた画商という商人は、共同体の外部の《カオス》の出自の刻印を持つものであったが故に、[汚いもの]として立ち現れたのである。
 だが今日、多くのコマーシャルにあふれた市場の過剰性は、この起源にあった[汚いもの]といU記憶を消し去っている。
 市場こそが社会であり、画商こそが美術を代表する世界になるのである。

 もう一度、おさらいをしよう。
 画商というものは、美術の共同体秩序(コスモス)の外に生まれた。外というのは《カオス》であった。
 近代になると、《カオス》である画商が、美術共同体を引き裂いて、進入してくる。
 
 高度市場社会が成立し、市場主義が社会の中心秩序になった今日では、画商、さらにはオークションが美術界の核になり、新しいコスモスを形成している。
 
 つまり、かつては共同体の外部(カオス)であった[画廊↓オークション]が、今日では共同体の中心(コスモス)を占めて、外部と内部が反転したのである。かつてのカオスが、今日では新しいコスモスになり、古いコスモスであった美術共同体はカオス化へと退落しているというのが、今日の様である。
 
 コスモスとカオスの反転という、手袋を裏返すような変動は、天地がひっくり返った様なもので、「コペルニクス的転回」と言うべき事態だと言える。
 

 この林子夫人の勤勉さはすばらしいと思う。感動を覚える。普通の人の三倍も四倍も働いている。こうした勤勉さと、夫がキリスト教の系譜を持っていたと言うことには、関連があるかもしれない。
 ドイツの社会学者・経済学者である。マックス・ウェーバーは、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で、プロテスタントのキリスト教の精神が、資本主義の合理性と勤勉さを生んだことを指摘している。この指摘のままに、林子夫人は、合理的に勤勉に、働き続けたのである


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