村上隆のフィギュア、約16億円で落札!(加筆2/訂正) [アート論]
村上隆氏のフィギュア、約16億円で落札
http://www.asahi.com/culture/update/0515/TKY200805150152.html
2008年05月15日15時06分
現代美術家の村上隆さんの立体作品「マイ・ロンサム・カウボーイ」が14日夜(日本時間15日)、競売会社サザビーズがニューヨークで開いたオークションで1516万ドル(約16億円、手数料込み)で落札された。村上さんの作品の落札額としては、過去最高額となる。これまでは、今年4月にロンドンで落札された立体作品「パンダ」の272万ドルが、最高額だった。
この作品は、裸の男性のフィギュアで、高さ254センチ。1998年に制作された。出品者、落札者、ともに公表されていない。落札予想額は、300万〜400万ドルだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
村上隆さんの作品が、
ついに16億円で落札というのは、
やはり、驚きです。
時代の変わり方というのを感じるニュースです。
私の時代であった1970年代には、
日本の現代美術家が、欧米のオークションで高額で落札されるという事は、
まったくなかったし、
日本の野球で王選手がいくらホームランを打っても、
アメリカは、見向きもしなかったのです。
時代の変化は劇的です。
そして日本の国技であった相撲も、
いつの間にか、外人横綱しかいない時代になったのですが、
その分、日本の現代アートが、
海外にも売れるようになったのです。
村上隆の『芸術起業論』が、少なくともある規模で、的中し、
実現して来ているのです。
問題は、この評価が歴史に耐えて行くかです。
しかしこれだけ高額になると、
将来に値崩れしても、
ゼロになることはありません。
さて、その16億円の作品を、
彦坂尚嘉のアートの格付けは、
どう判断するのか、
お笑いをかねて、やっておきます。
■《イメージ判定法》で、《13流》。
■《言語判定法》で、《13流》。
■《現実判定法》で、《1流》。
13流というのは、喜劇とか、お笑いの領域です。
この場合、《現実判定法》での《1流》性というのは、
村上隆の重要な面であります。
仕上げの美しさと、豊かさという、
日本画出身者らしい、画工的高さが、
村上作品の社会的流通性の大きな要素になっていると言えます。
さらに踏み込んで言えば、
この村上隆の作品は、合法的で、実体的ですから、
■彦坂の芸術観からは、《デザイン的エンターテイメント》にすぎなくて、
芸術作品では無いことになります。
《デザイン的エンターテイメント》だからこそ、
国際社会の中で、うまく立ち回っていると言う面もあると思います。
■気体美術。
■《想像界》の美術。
■ローアートであって、ハイアートではありません。
■気晴らし美術であって、シリアス・アートではありません。
■偶像崇拝の美術であって、抽象美術ではありません。
さて、ついでに、高額落札のニュースを、
3つ
書いておきます。
フランシス・ベーコン
ルシアン・フロイト
そして、マーク・ロスコです。
5月14日のニューヨークのサザビーズのオークションで、
フランシス・ベーコンの1976年の作品が、86.2 million dollars、
日本円で約66億円ほどで、落札されています。
現代美術で66億円は、史上最高値で、やはり、
時代の変化を感じさせるニュースであります。
これも彦坂尚嘉のアートの格付けは、
どう判断するのか?
■《イメージ判定法》で、《41流》。
■《言語判定法》で、《超1流》から《41流》までの全部をもつ多層作品。
■《現実判定法》で、《8流》。
《8流》というのは、良いと思う人たちだけが良いと思う信仰領域。
ベーコンの作品は、非合法的で、非実体的です。
さらに《1流》性も持っていますので、
■彦坂の芸術観では、《真性の芸術的芸術》ということになります。
■気体美術。
■《象徴界》の美術です。
■ローアートであって、ハイアートではありません。
■気晴らし美術であって、シリアス・アートではありません。
■偶像崇拝の美術であって、真性の抽象美術ではありません。
つづいてルシアン・フロイトの大作が、日本円で約35億円で落札されています。
これも彦坂尚嘉のアートの格付の判断は?
■《イメージ判定法》で、《8流》。
■《言語判定法》で、《6流》の《超1流》《超1流》。
■《現実判定法》で、《8流》。
フロイトは、実体的で、非合法ですので、
■《芸術的エンターテイメント作品》です。
■気体美術。
■《現実界》の美術です。
■ローアートであって、ハイアートではありません。
■シリアス・アートです。
■偶像崇拝の美術であって、真性の抽象美術ではありません。
ロスコのOrange, Red, Yellowという作品(79.50" x 69"Created: 1956)
が、
日本円で約50億円で落札されています。
これも彦坂尚嘉のアートの格付けでは、
■《イメージ判定法》で、《超1流》。
■《言語判定法》で、《6流》。
■《現実判定法》で、《1流》。
ロスコは、実体的で、合法的ですから、
■《デザイン的エンターテイメント作品》であって、
芸術ではありません。
■さらに、液体美術。
■《想像界》の美術。
■ハイアートです。
■シリアス・アートです。
■偶像崇拝の美術であって、真性の抽象美術ではありません。
マーク・ロスコの作品は、
彦坂の眼からは、《デザイン的エンターテイメント作品》であって、
まったく芸術ではないということになります。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
村上隆や、ロスコの作品のように、
彦坂の視点では、《デザイン的エンターテイメント作品》に過ぎなく見える作品も、
芸術作品として高額で取引されて行く事は、
社会的な事実です。
言い換えると、社会的事実の芸術と、
彦坂の考える芸術というものが、ずれているというか、
一致しない面を持っているということは言えます。
それは、おかしいではないか?
というご批判もあると思いますが、
たとえばブランドのルイ・ヴィトンのバックも、
社会に流通しているのは2種類あります。
つまり本物のヴィトンと、偽物のヴィトンです。
古美術の世界で流通している美術作品の、
8割は偽物であると言われます。
贋作とか、偽の芸術作品というのは、
芸術という社会制度を成立させている、
大きな要素なのです。
偽とか、贋作と言う言い方でなくても、
Aクラスの芸術と、Bクラスの芸術の、
少なくとも2つがあって、
その間もあって、実は複雑なものなのです。
村上隆よりも、ロスコの作品評価をめぐっては、
異論を持つ人が多いと思います。
世評的には人気の高い作家だからです。
しかしロスコの作品を良くないとする意見は、
必ずしも彦坂だけではなくて、1950年代から根強くあります。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最近のこうした高額での落札は、
金融上の問題もあるのでしょうが、
それだけでなくて、
芸術の認識が、
本格的に現代美術にシフトしてきたという印象を抱かせるものがあります。
それと、ここで上げた4つの作品に共通することは、
偶像崇拝の美術であって、
偶像崇拝性を否定した、真性の抽象性を持っていない事です。
私見では、
抽象美術の時代が終わって、
この偶像崇拝性の復権と言う流れが、
この情報化社会の芸術の大きな特徴のように、思えます。
そのことは、必ずしも具象画だけに当てはまる事ではなくて、
ロスコのように、一見すると抽象画に見える作品にも、
偶像崇拝性があるという彦坂流の指摘は、
意味のあることだと、思います。
ただ、偶像崇拝性の否定と言う精神の運動は、
人類史の中で、時代によってさまざまな形をとりますが、
本質的な運動であって、
これからも消えるとは思いません。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ひこさか なおよし/1946年、東京世田谷生まれ。ブロガー、美術批評家、美術家
日本建築学会会員、日本ラカン協会幹事、アートスタディーズ・ディレクター
著書に『反覆・新興芸術の位相』(田畑書店)
『彦坂尚嘉のエクリチュール/日本現代美術家の思考』(三和書籍)
日本建築学会会員、日本ラカン協会幹事、アートスタディーズ・ディレクター
著書に『反覆・新興芸術の位相』(田畑書店)
『彦坂尚嘉のエクリチュール/日本現代美術家の思考』(三和書籍)
ロスコの絵画は一点一点が違うサイズですね。絵画自体がキャラクターとして、「仏像」や「イコン」のように成立していると考えれば、なるほど「偶像崇拝」であるというのも理解できる気がします。
by コア (2008-05-18 17:19)
ロスコはモップで描いています。
by ヒコ (2008-05-18 20:01)
「日本画出身者らしい、画工的高さが、村上作品の社会的流通性の大きな要素になっていると言えます。」
村上批判をする人達は、彼の作風を嫌うがあまり、上記の
事を軽視し、スルーして語る事が多いですが、その部分にも
ちゃんと触れられられた事に好感を覚えました。
しかし、村上隆の言う所のハイアートと、ヒコさんの言う所の
ハイアート、かなり意味合いが違う様ですね。
村上さんは、ハイアートという言葉を大衆芸術の対比語として
使うのに対し、ヒコさんは純粋芸術を指してハイアートという
言葉を使われてる様に受け取りました。
なので、ヒコさんがローアートと呼ぶ作品や作家を、村上さんは
ハイアートとする事が多い様です。
by George (2008-06-05 03:09)