教育の限界（加筆2）

教育の限界を感じたのは、

何度もある。

わかりやすいのは、

コンピューターでの印刷の完全入校を、朝田公子さんという

アーティストに教えようとして、

半日で、くたびれ果てて、

あきらめた。

とてもできるものではない。

だから、まして糸崎さんに、良い絵を見分ける秘訣を教えるなどということは

できない。

むかし、峰村敏明さんなどにも、

日本画のことや、ヴァルールのことを話すことは試みているが、

基本をつたえることが事態が無理であった。

千葉某氏ともつき合ったが、無理である。

堀某氏ともつき合ったが無理である。

諏訪某氏、丸山某氏・・・・

こういう名前はたくさんあげられるが、

みんな無理なのですよ。

絵画というのは、自分の外部世界をどのように見ているのかという

方法なのだけれども、

それにはいろいろある。

そのいろいろを知るには、

それなりに手間もかかるし、

ひよこの雄雌を見分けるような繊細さが必要です。

人間というのは、きわめて、各自独自に存在していて、

お互いに勝手に生きて、死ぬしかないのです。

教育の限界は存在します。

絵画がわからない人はたくさんいるのです。

哲学がわからない人もいるのです。

芸術がわからない人もいるのです。

そして良いのものが分からない人もいるのです。

味の善し悪しも分からない人はいます。

私の義父は、味音痴でした。

色盲の人もいるし、盲目の人もいる。

各自の能力は、平等ではないのです。

各自の運命を生きるしかないというのが、基本です。

私の場合には、芸術お宅なのです。

しかし、糸崎さんのようには、

路上を観察する能力はありません。

最近は少しは真似をしていますが。

だから、お互いに、ほったらかして、死ぬのを待てば良いのです。

しかし自分の固有の限界を超えようとする人だけが、

教育の可能性の扉を開くのです。

個人の固有の限界は、他者を学ぶことで、超えることはできるのです。

しかしそれはその人が望めばであって、

望みもしない人に、教育は不可能です。

無知無能で死ねばよいのです。

そして無知無能で、

死に腐ってくことが、

人間の無惨な本質です。

皆、死ぬのです。

・・・・・・・・・・・・・

糸崎さんとの対応を十分にできない事情が、

こちらにあるのです。

それが、一つは死の問題です。

たとえば彼のホトモという写真を使った建築模型のような作品は、

良くできていて、私の評価は高いですが、

普通の意味では、芸術作品という文脈に入ってきません。

今の時代のことですから、

入りきらないとは言えませんが、

しかし、彼の死後にどのくらい、残って、

評価を得るでしょうか？

あまり、死後を考えた作品ではないのです。

しかし芸術というのは、

実は死の問題なのです。

これも思い込みでしかありませんが、

死後に残るものを作ろうとすることです。

絵画の問題も、前提にあるのは、

絵画史なのです。

絵画の歴史と、その成果、

そしてそこでの構造を問題にしない限り、

回答にならないのです。

もちろん、そういう歴史が終わったということも事実なのですが、

にもかかわらず、

そうだということです。

それと、ローアートという問題です。

かなり明確にその構造の良さと、悪さが、

糸崎さんの作品にはあります。

悪さだけ言えば、面白すぎるのです。

良さも、それ以上にあるので、

あまり、つまらない批判的な言辞はしたくありません。

ただ、言いたいことは、

彦坂は、糸崎さんが分かるけれども、

糸崎さんを説得することは、

できないし、

仕事をしている

次元が違うということです。

この場合の次元の差は、

とにかく違うという、その事実です。

糸崎さんは、路上のようには、

美術史を観察はしない。

私は美術史のようには、

路上を観察しない。

お互いに、観察の領域が違うのです。

コメント 14

作家になる出発点で「彦坂尚嘉に世話になった」という人は多いですね。
その意味では凄い教育者だと思います。
by 丈 (2009-01-01 22:13) 

この記事に返信しようとしてたところ、後回しにして遅れてしまいました。

> だから、まして糸崎さんに、良い絵を見分ける秘訣を教えるなどということは
> できない。

これについては別の記事に返信しましたが、ご迷惑でなければ、気長にお付き合いいただければと思います。
http://hikosaka.blog.so-net.ne.jp/2009-01-09

> 糸崎さんとの対応を十分にできない事情が、
> こちらにあるのです。
> それが、一つは死の問題です。
>
> たとえば彼のホトモという写真を使った建築模型のような作品は、
> 良くできていて、私の評価は高いですが、
> 普通の意味では、芸術作品という文脈に入ってきません。
> 今の時代のことですから、
> 入りきらないとは言えませんが、
> しかし、彼の死後にどのくらい、残って、
> 評価を得るでしょうか？
> あまり、死後を考えた作品ではないのです。
>
> しかし芸術というのは、
> 実は死の問題なのです。
>
> これも思い込みでしかありませんが、
> 死後に残るものを作ろうとすることです。
>
> 絵画の問題も、前提にあるのは、
> 絵画史なのです。
> 絵画の歴史と、その成果、
> そしてそこでの構造を問題にしない限り、
> 回答にならないのです。

実のところ、ぼくは「死の問題」を考えてるつもりなのです。
ただつもりはあくまで「つもり」であって、それじゃダメだと指摘されればその通りかもしれません。
いちおう簡単に説明すると、デュシャンのレディメイド、つまり「作品を作らない芸術」の文脈を、ソシュールの言語学やレヴィストロースの構造主義と結び付け、ポストモダニズム的方法論に結びつける・・・とか何とか考えてます。
しかしぼくの学問知識は「入門書レベル」ですし、ある美術評論家には「君はコンセプチュアルアートをやるにはIQが足りない」というようなことを（婉曲的に）指摘されたこともありますので、どれほどのものかは不明です（笑）。
作品形態については、ぼくは写真集や雑誌などの印刷物を主体にしてますが、これは「とにかくたくさん卵を産む」という昆虫の戦略に倣っているのかも知れません。
これに対し人間は少数精鋭で大事に子育てしますから、この意味では「一品製作」の芸術作品に似てるかもしれません。

> それと、ローアートという問題です。
> かなり明確にその構造の良さと、悪さが、
> 糸崎さんの作品にはあります。
> 悪さだけ言えば、面白すぎるのです。

自分の作品の悪さ＝面白すぎ、というのは何となく感じてました。
しかし彦坂さんがおっしゃるのは、また別の意味かもしれません。
実のところ、彦坂さんの思想を知る上で、自分の作品いついての「格付け」を知ることが、ある意味近道なんじゃないかと思います。
これはあくまで図々しいお願いなので、彦坂さんが必要と判断した時にお願いできればと思います。
それで、お互い生きる次元が違うなら、それでもいいと思いますが、それでも「どう違うのか」という相対的位置は知りたいです。
とりあえず、ぼくは作品が批判されても怒ったりはしませんので・・・むしろ体よく無視される方がつらいです（笑）
フォトモについてはこちらのページにまとまってます。
http://www.olympus.co.jp/en/magazine/pursuit/feature_article/feb2007/index.cfm
その他の作品は、ホームページからリンクを張ってます。
http://www.itozaki.com/
by 糸崎 (2009-01-10 13:06) 

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